犠牲とコンビネーション — ギリシャの贈り物
犠牲とは何か
駒を相手に渡し、そのあとでそれ以上のものを取り返す。この手を犠牲、またはサクリファイスといいます。
見た目は派手ですが、やっていることは計算です。渡す駒の価値と、返ってくるものの価値を比べているだけです。返ってくるものが詰みであれば、渡す駒の価値はいくらでも構いません。
問題は、返ってくることをどうやって確かめるかです。ここを確かめずに指すと、ただの駒損になります。
成立する犠牲と、しない犠牲の違い
二つを分けるのは、駒を渡したあとに相手へ選択肢が残るかどうかです。
| 項目 | 成立する犠牲 | ただの駒損 |
|---|---|---|
| 相手の指せる手 | 一つしかない(王手か、取り返さざるを得ない形) | いくつもある |
| こちらの読み | 詰みか駒得まで読み切れている | 攻めが続きそうだという感触だけ |
| 外れたとき | 外れることがない | 駒が一枚少ないまま終盤に入る |
相手の選択肢を減らす手は、王手と、取り返さなければ大損になる手です。したがって犠牲は、この二種類の手をつないで作ります。相手が選べる手を一つでもはさむと、その先は読み切れなくなります。
このように、王手や取る手を続けて、最後に決まった結果へ持っていく一連の手順のことを、コンビネーションといいます。
前の記事で見た「Re8+ Rxe8 a8=Q」も「Qg8+ Rxg8 Nf7#」も、途中の手はすべて王手か取る手でした。相手が選べないため、最後まで読み切ることができます。
ギリシャの贈り物
古くから知られている犠牲の形を一つ扱います。キャスリングをした王のいる側の h7 のマスに、ビショップを打ち込む形です。ギリシャの贈り物と呼ばれています。
1. Bxh7+ ビショップで h7 のポーンを取ります。王手です。赤がこれを取らなければ、白はビショップを引き上げるだけで、ポーンを一つ得したことになります。
1… Kxh7 王で取ります。白はここで3の価値の駒を失いましたが、赤の王は囲いの外に出ました。
2. Ng5+ ナイトが跳んで王手をかけます。この手によって、赤の王は g8 に戻ることになります。
2… Kg8 王が戻ります。
3. Qh5 この手は王手ではありません。しかし次に Qh7 が詰みになるため、赤は受けなければなりません。
3… a6 ここでは、赤が受けを間違えた場合を示します。関係のない手を指しました。
4. Qh7# g5 のナイトが h7 を守っているため、赤の王ではクイーンを取れません。f8 は自分のルーク、f7 と g7 は自分のポーンでふさがっています。詰みです。
赤が正しく受けた場合
上の手順は、赤が受けを間違えた場合のものです。正しくは、3手目のあとに 3… Re8 のようにルークを8段目の別のマスへ動かし、f8 を空けておきます。こうすると Qh7+ に対して Kf8 と逃げられるため、すぐには詰みません。
その場合、白は 4. Qxf7+ と進めます。f7 のポーンは g5 のナイトも狙っているため、赤の王では取り返せず、Kh8 と引くことになります。白はポーンを二枚取ったうえで、攻めを続けられる形です。
つまりこの犠牲は、必ず詰みになるというものではなく、相手に正確な受けを続けさせる形だと考えてください。盤の上に白の駒がもう一枚あれば、そのまま詰みまで届くこともあります。
三手目の Qh5 について
三手目の Qh5 は、王手でも取る手でもありません。このような手を静かな手といいます。
王手を続けているあいだ、相手の指せる手は限られています。しかし王手だけで詰みまで届くことは多くありません。王手が尽きたところで、相手が受けきれない静かな手を見つけられるかどうかが、読みの深さの分かれ目になります。
この犠牲が成立する条件
ギリシャの贈り物は、いつでも成立するわけではありません。次の四つがそろっているかを確かめてください。
- ビショップが h7 まで通っていること。途中に駒があれば成立しません。
- ナイトが g5 へ跳べること。王を追い返すのがこの手の役目です。
- クイーンが h5 へ出られること。詰みを作るのがこの手です。
- 相手のナイトが f6 にいないこと。
四つめが、最も多い失敗の原因です。f6 にナイトがいると、そのナイトが h5 と g5 の両方に利くため、二手目と三手目の両方が成立しなくなります。
そのため実戦では、まずポーンで f6 のナイトを追い払ってから仕掛けます。図1で白のポーンが e5 にあるのは、そのためです。
自分の犠牲が成立しているかを確かめる三つの問い
- 相手は、取らずにいられるか。取らずに済むのであれば、それは犠牲ではなく、ただ駒を一枚渡しただけです。
- 取ったあと、こちらの手はすべて王手か取る手か。途中に相手が選べる手が一つでもあれば、その先は読み切れていません。
- 最後に何が返ってくるか。詰みか、成ったクイーンか、それとも攻めが続きそうだという感触だけか。
三つめで「攻めが続きそう」としか言えないのであれば、その犠牲はまだ指さないほうが安全です。感覚で駒を捨てられるようになるのは、判断の材料が十分にたまってからで構いません。
レベル7から8で練習する
チェスのページを開き、強さを7か8にしてください。
レベル7は7手先、レベル8は9手先まで読みます。上のギリシャの贈り物は7手なので、成立する犠牲であれば通り、成立しない犠牲は咎められます。
言い換えると、この範囲で通った犠牲は、実戦でも成立すると考えてよいことになります。読みの浅いレベル3から5では、成立していない犠牲でも通ってしまうことがあるため、成否の判定には使えません。
うまくいかなかったときは、どの手で相手に選択肢を与えてしまったかを探してください。犠牲が失敗する原因は、ほとんどがそこにあります。
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