チェスの戦い方 — 何をどの順で覚えればいいの?
この記事について
初心者の方がチェスのルールを覚えたあと、次に何を勉強すればよいのかというのは、あまりはっきりしていません。序盤の手順を集めた本もあれば、詰みの問題集もあります。どちらから手を付けるべきか、あるいはもっと別なことから学ぶべきなのか。これは非常に重要なことなのですが、この重要な指針を示していない書籍も数多くあり、私はその欠落を埋めるべくこの記事を作成することを決意したのです。
つまり、この記事は初心者の方がスムーズにチェスの基礎を固められるように設計されているので、お金をかけて書籍を用意するよりよっぽど良い選択肢となるでしょう。
さて、チェスでは駒を取ったり相手の王を詰ませたりするための具体的な手段のことを、戦術といいます。ここでは戦術を5つの段階に分け、それぞれの段階で何を覚えればよいのかを説明します。段階ごとに解説記事があり、この記事から順に読めるようにしてあります。
序盤の手順を覚えることと、勝てるようになることは別です
チェスを覚えたばかりの人が最初に手を付けやすいのは、定跡です。定跡とは、序盤の指し手として長く研究され、多くの対局で使われてきた手順のことをいいます。
定跡を覚えること自体には意味があります。ただし、定跡を覚えれば勝てるようになる、というわけではありません。理由は二つあります。
一つめは、定跡が使える範囲が限られていることです。定跡として整理されているのは、おおむね序盤の十数手までです。相手がその手順から外れた手を指せば、そこから先は自分で考えて指すことになります。
二つめは、駒を取られる場面の多くが、定跡とは関係のないところで起きることです。序盤を定跡どおりに指していても、そのあとで駒を一枚でもただで取られてしまえば、そこまでに得ていた有利は失われます。反対に、駒をただで取られないように指すだけでも、対局の内容はかなり変わります。
そのため、この記事では戦術を先に扱います。
戦術と戦略は、別のものです
チェスの解説には、戦術と戦略という二つの言葉が出てきます。とても似たように感じられる言葉ですが、指している内容が違うので、先に分けておきましょう。
戦術(タクティクス)とは、いま盤の上にある駒を使って、数手のうちに駒を得たり相手を詰ませたりする、具体的な手段のことです。このあと説明するフォークやピンが、これにあたります。
戦略(ストラテジー)とは、対局をどう進めていくかという方針のことです。中央のマスを押さえる、相手の弱いポーンを狙う、といった長い見通しがこれにあたります。
| 用語 | 内容 | かかる手数 |
|---|---|---|
| 戦術(タクティクス) | 数手のうちに駒を得る、または詰ませる具体的な手段 | 2手から5手ほど |
| 戦略(ストラテジー) | 対局全体をどう進めるかという方針 | 10手以上、終局まで |
先に覚えるのは戦術です。理由は二つあります。
一つめは、戦術は形が決まっているため、覚えればその日から使えることです。戦略は、身につけてから結果に表れるまでに時間がかかります。
二つめは、戦略の解説が、戦術を見落とさないことを前提に書かれていることです。自分にとって良い形を作っても、次の手でクイーンを取られてしまったら、その形を生かすことはできません。
戦術の例を一つ見ておきます
言葉だけでは分かりにくいので、実際の形を一つ見ておきます。
この一手で、白は駒を一枚多く持つことになります。駒の数の差は、そのあと交換が進んでも残り続けるため、終盤まで影響します。
ここで大切なのは、フォークという形を知っているかどうかで、盤を見たときに気づけるかどうかが変わる、という点です。戦術の学習の多くは、こうした形を一つずつ覚えていく作業です。
学習の5つの段階
戦術には、前の段階を身につけていないと次が理解しにくい、という順序があります。下の表の順に進めてください。
| 段 | 覚えること | 練習に使うレベル |
|---|---|---|
| 第1段 | 駒をただで取られないようにする。駒の価値と「ひも」 | 1〜2 |
| 第2段 | 基本の四つの型。フォーク、ピン、スキュアー、ディスカバードアタック | 3〜5 |
| 第3段 | よく出る詰みの形を覚える | 5〜6 |
| 第4段 | 相手の守りを外す。犠牲と組み合わせ | 6〜8 |
| 第5段 | 読みの手順と、戦術が生まれる条件 | 9〜EX |
いちばん右の「練習に使うレベル」は、このサイトのチェスAIの強さの番号です。なぜレベルが練習の目安として使えるのかを、次に説明します。
このサイトのAIの強さは、読む手数で作ってあります
このサイトのチェスAIは、市販のソフトを使ったものではなく、全て私たちで設計したものです。強さの11段階は、名前を付け分けただけのものではなく、AIの中の設定値をレベルごとに変えて作っています。
設定値は三つあります。
- 何手先まで読むか。ここでいう1手は、どちらか一方が1回指すことを指します。「4手」であれば、自分・相手・自分・相手の4回ぶんです。
- 手加減の幅。いちばん良い手から、どれくらい損な手まで選ぶことがあるか、という値です。ポーン1枚ぶんの損得を1として表しています。
- 定跡を使う長さ。序盤の何手目まで、あらかじめ用意した定跡から指すか、という値です。
| レベル | 何手先まで読むか | 手加減の幅 | 定跡を使う長さ |
|---|---|---|---|
| 1 | 1手 | 2.6 | 使わない |
| 2 | 1手 | 1.7 | 使わない |
| 3 | 2手 | 1.2 | 使わない |
| 4 | 3手 | 0.8 | 4手目まで |
| 5 | 4手 | 0.55 | 6手目まで |
| 6 | 5手 | 0.34 | 8手目まで |
| 7 | 7手 | 0.20 | 10手目まで |
| 8 | 9手 | 0.10 | 14手目まで |
| 9 | 12手 | 0.04 | 18手目まで |
| 10 | 1手に3〜4秒(20手前後) | 0 | 24手目まで |
| EX | 1手に8秒(さらに深く) | 0 | 30手目まで |
表の見かたを補足します。
手加減の幅が2.6というのは、いちばん良い手より2.6ポーンぶん損な手でも、ある程度の割合で選ぶことがある、という意味です。2.6ポーンはナイト1枚に近い値ですから、レベル1はナイトを1枚損する手を選ぶことがあります。この値はレベルが上がるにつれて小さくなり、レベル10とEXでは0になります。0は、必ず一番良い手を選ぶという意味です。
もう一つ、全てのレベルに共通する仕組みがあります。読む手数の数字どおりに計算を打ち切ると、「クイーンでポーンを取ったところで数え終わり、次に取り返されることが見えない」という状態が起きます。これを避けるため、駒の取り合いが続いている間は、手数の数字を超えても最後まで読むようにしてあります。そのためレベル1でも、目の前の単純なただ取りは見えています。見落とすのは、その先です。
レベルは、自分の読みの深さの目安になります
この表には、練習する側にとって便利な性質があります。レベルの数字が、そのまま相手の読む手数だという点です。
レベル3に安定して勝てるのであれば、2手先までの読み合いでは負けていないことになります。レベル6に勝てないのであれば、5手先で成立する仕掛けが見えていない可能性があるでしょう。
ただし、これは目安です。実際には定跡の使いかたや、1手にかける時間の差も混ざります。「レベルNに勝てる=N手先が読める」という正確な関係ではありません。自分がどのあたりでつまずいているかを見当づけるために使ってください。
第1段|駒をただで取られないようにする
戦術の記事を何本も読むより、駒を一枚もただで渡さないようにするほうが、勝率への影響は大きくなります。ここが土台になります。
練習にはレベル1か2を使います。この二つは1手先しか読まないため、こちらが2手先まで読めるようになると勝てなくなります。逆にいえば、ここで安定して勝てないうちは、次の段階に進んでも身につきにくいということです。
第2段|基本の四つの型を覚える
戦術の多くは、次の四つの型と、その組み合わせでできています。順に読んでください。
練習にはレベル3から5を使います。レベル5は4手先まで読むため、単純なフォークやピンには引っかかりません。自分から仕掛けたときに通るかどうかを試す相手として、ちょうどよい深さです。
第3段|詰みの形を覚える
戦術が行き着く先は詰みです。詰みは、読みで一から探すよりも、よく出る形を覚えておいて、それに近い形を盤の上で見つけるほうが早く見つかります。
練習にはレベル5から6を使います。この二つは自分から詰みを狙ってきますし、こちらの詰み筋からも逃げます。
第4段|相手の守りを外す
第2段までの型は、相手が守っていると、そのままでは通りません。守っている駒を先に外してから型を当てる、という二段構えが必要になります。
練習にはレベル6から8を使います。レベル8は9手先まで読むため、成立していない犠牲はもちろんあなたの不利として逆に利用されてしまいます。もしうまくいかなかった場合、その仕掛けは実戦でも成立しないと考えてよいことになります。
第5段|読みの手順と、戦術が生まれる条件
上級者と初級者の差は、知っている型の数だけではありません。「この局面には何かありそうだぞ」と気づけるかどうかにも差があります。これは勘ではなく、盤の上の条件で説明できます。
練習にはレベル9から10、もしくはEXを使います。この三つには手加減がほとんど、またはまったく入りません。相手のミスで勝つことがないため、自分の読みの不足だけが結果に残ります。
対局のたびに確かめること
記事を読み直すよりも、次の三つを毎回続けるほうが効果があります。
- 相手が指したら、その手が何を狙っているかを言葉にします。「ビショップが出てきた。次に f7 に利く」という程度で十分です。狙いが見当たらなければ、「特に無い」で構いません。
- 自分の手を決めたら、指す前に一度止まります。確かめるのは、「この手を指したあと、ただで取られる駒はないか」の一点です。
- 負けた対局は、駒の数が変わった手を一つだけ探します。全部を見直す必要はありません。
三つとも地味な作業ですが、上達する人はほぼ全員がこれを続けています。
実際に指してみる
覚えた形は、盤の上で使わないと身につきません。チェスのページから、いまの段階に合ったレベルで指してみてください。指し間違えたときは「1手もどす」で戻せるため、同じ場面を何度でも試すことができます。
レベルを上げるのは、いまのレベルに3回続けて勝ってからで十分です。勝てないレベルと指し続けても、自分に何が足りないのかは見えにくくなります。