戦術はなぜ生まれるのか — ゆるんだ駒とキングの安全
「何かありそうだ」と感じるのは、勘ではありません
上級者の対局を見ていると、特に何も起きていないように見える場面で、急に手が止まることがあります。そして長考のあと、何かを見つけます。
これは勘ではありません。盤の上に、戦術が生まれる条件がそろったことに気づいているだけです。条件は四つあり、どれも数えれば確かめられます。
この記事では、その四つを一つずつ説明します。条件がそろっていない局面で戦術を探しても、たいていは何も見つかりません。探すのをやめて、条件を数えるほうが早くなります。
条件1|守られていない駒が二枚ある
どの駒にも守られていない駒のことを、ゆるんだ駒といいます。
ゆるんだ駒が一枚だけであれば、狙われても逃げれば済みます。しかし二枚になると、その両方に同時に利くマスが盤の上のどこかにある確率が、急に高くなります。クイーンのように利きの広い駒であれば、そのマスへ移動するだけで両取りになります。
自分の手番になったら、まず相手のゆるんだ駒を数えてください。0枚か1枚であれば、両取りを探しても見つからないことが多くなります。2枚以上あれば、探す価値があります。
同じことを、自分の側でも数えてください。自分のゆるんだ駒が二枚になった時点が、最も戦術を受けやすい状態です。
条件2|王が安全でない
王が攻められる位置にあると、そのまわりの駒が本来の働きをしなくなります。動けなくなる駒が増え、守りの枚数が実質的に減るためです。
王の安全が崩れている形は、三つに整理できます。
| 形 | 何が起きるか |
|---|---|
| 開いた列や斜めの線に王がいる | 王と同じ線にある駒が、すべてピンにかかる |
| 王のまわりのポーンが動いている | その隙間から斜めの線が通り、犠牲の的になる |
| 王に逃げ道がない | 一段目の詰みや窒息メイトが成立する |
この三つのどれかが相手に起きている場合は、駒を得る手よりも、王を狙う手を先に探してください。
条件3|一枚で二つ守っている駒がある
前の記事で扱った働きすぎです。
守りの駒を数えるときは、枚数だけでなく、それぞれの駒がいくつの役目を持っているかも確かめてください。二枚で守っているように見えても、そのうち一枚が別の役目も持っていれば、実質的な守りは二枚に届いていません。その差が、戦術の入り口になります。
条件4|相手の駒が一直線に並んでいる
同じ列、同じ段、同じ斜めの線。相手の駒が二枚並んでいる場合、その線には何かが成立する可能性があります。並びかたによって、成立するものが変わります。
- あいだが空いている場合は、ピンかスキュアーの形です
- あいだに相手の駒が一枚ある場合は、その駒はピンにかかっているか、こちらが動かせばディスカバードアタックになります
- あいだに自分の駒が一枚ある場合は、こちらのディスカバードアタックの材料です
特に注意が必要なのは、王とクイーンが同じ線に並ぶ場合です。この二枚は価値の差が大きいため、線が通った時点でどちらかを失うことになりやすくなります。
この四つを管理することが、戦略です
ここまでの内容から、戦術と戦略の関係を整理できます。
戦術は、局面に勝手に現れるものではありません。ゆるんだ駒、安全でない王、働きすぎの守り、並んだ駒。これらはすべて、そこまでの数十手が作った結果です。
上級者が序盤と中盤でやっているのは、この四つの条件を相手側に作り、自分の側には作らないことです。具体的には、次のようになります。
- 自分の駒には守りを付けておく(ゆるんだ駒を0枚に保つ)
- 王は早めに安全な位置に入れる
- 守りの駒に、二つ以上の役目を持たせない
- 王やクイーンを、開いた列や斜めの線に置かない
これが戦略です。派手な内容ではありませんが、この四つを守っているだけで、相手の戦術は成立しにくくなります。
自分の手番で見る四つ
実戦で使えるようにまとめます。手番が来たら、次の順に確かめてください。慣れれば10秒ほどで終わります。
- 相手のゆるんだ駒は何枚か。二枚以上あれば、両取りを探します。
- 相手の王は安全か。開いた線、動いたポーン、逃げ道のなさ。どれかがあれば、王を狙う手を探します。
- 相手の守り駒のうち、二つ以上の役目を持っているものはないか。
- 同じ線に並んでいる駒はないか。王とクイーンの組み合わせであれば、最優先で調べます。
そのあと、同じ四つを自分の側でも確かめます。攻める手が見つからない局面では、自分の側のこの四つを消すことが最善手になります。
レベル9か10、もしくはEXで確かめる
チェスのページを開き、強さを9か10、もしくはEXにしてください。
この範囲のAIは、上の四つの条件をこちらが作った時点で、そこを突いてきます。手加減はほとんど、またはまったく入りません。特に、レベル10とEXは、必ず最善手を指してきます。
そのため、どこで崩れたかによって、自分に足りていない条件を判断できます。
| 負けかた | 足りていないもの |
|---|---|
| 序盤で崩れる | 条件2。王の安全ができていません |
| 中盤で駒が落ちる | 条件1。ゆるんだ駒を放置しています |
| 守っていたはずが崩れる | 条件3。守り駒の役目を数えていません |
| 一手で形勢が変わる | 条件4。並んだ駒を見ていません |
EXは1手に8秒まで使い、定跡も最も深く使います。アマチュアの方が勝つのは非常に難しい強さです。ただし、勝つ必要はありません。どの条件で負けたのかが分かれば、その一局には意味があります。
ここまでが、戦術の学習の全体です。あとは、実際に指す回数を重ねてください。
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強さは11段階。勝てる相手から始められます。
